日常の何気ない道具である食品用ラップ。日本では、箱から引き出して刃を当てれば、誰でも片手できれいに切り取ることができ、お皿にピタッと吸着するのが当たり前です。しかし海外、例えばイギリスなどのスーパーで購入できるラップは、驚くほどきれいに切れず、お皿にもうまく貼り付かないことが珍しくありません。現地の人に尋ねると、「ハサミで切れば済む話だ」と、気にも留めない様子です。この「ラップの切れ味」に対する感覚の違いは、実はビジネスシステム、とりわけERPの選定や導入において、日本企業が直面する根深い課題と見事にリンクしています。
品質へのこだわりが生むギャップ
日本製品の細部へのこだわりは世界的に高く評価されています。前述したラップの例のように、日本の消費者は「道具が人間の動作にどこまで最適化されているか」を追求します。一方で、欧米では「機能として使えれば細部にはこだわらない」という合理主義的な考え方が主流です。
この品質に対する気質の違いは、ソフトウェア開発の世界、特にERPパッケージの思想にも色濃く反映されています。海外製のERPは、グローバル標準の業務プロセスを効率的に回すための骨組み(ベストプラクティス)を提供することに特化しています。そのため、ユーザーインターフェース(UI)の使い勝手や、細かな入力支援機能などは「二の次」とされているケースが多々あるのです。
海外製ERPが雑に感じられる背景
日本の業務システムに慣れ親しんだ担当者が海外製ERPのデモ画面を見ると、驚くほど「雑」で不親切に見えることがあります。例えば、以下のようなポイントが挙げられます。
- 入力時のエラーチェックが不親切で、どこが間違っているのか分かりにくい
- 画面遷移が多く、1つの作業を完了させるために何度もクリックを要求される
- 日本独特の商習慣(締め請求や複雑な手形処理など)に対応する標準機能がない
日本企業では、現場の作業効率を極限まで高めるために、システム側が人間の手間に合わせるという考え方が一般的です。しかし、海外製ERPの思想はまったく逆です。システムが提示する「標準」に人間側が業務を合わせることを求めます。この思想的な断絶こそが、導入時の「使いにくさ」の最大の原因です。
膨らみ続けるカスタマイズの罠
多くの日本企業は、この「使いにくさ」を解消するために、標準機能の変更や画面の作り込み、いわゆるカスタマイズを選択してしまいます。しかし、ここには大きな罠が潜んでいます。
システム肥大化とコスト増
使いやすさを求めてカスタマイズを重ねると、ERP本来のメリットである「迅速なデータ統合」や「標準プロセスの適用」が損なわれます。さらに、バージョンアップのたびに莫大な検証費用が発生し、システムが「塩漬け」状態になるリスクも高まります。
「現場の使いやすさ」を優先してカスタマイズを繰り返した結果、導入コストが当初予算の数倍に膨れ上がるケースは珍しくありません。
私たちは、安易なカスタマイズが結果的に企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)を阻害する要因になることを理解しなければなりません。
道具に合わせるか自社に合わせるか
では、中堅企業はどのようにしてこのギャップを埋めるべきでしょうか。まずは「すべての業務をシステムに合わせる」のか、それとも「自社の強みであるこだわりをシステムで維持する」のかという明確な方針決定が必要です。
- 競争力の源泉ではないバックオフィス業務(人事、会計など):海外製ERPの標準プロセスに徹底的に業務側を合わせる
- 自社の強みであるコア業務(製造管理、顧客対応など):きめ細やかな対応ができる国産ERPや、柔軟なローコードツールを組み合わせる
このようなハイブリッドな思想を持つことが、現代のERP選定には欠かせません。
失敗を防ぐERP選定のプロセス
ERP選定で後悔しないためには、自社の「こだわり」が本当に他社との差別化につながっているのかを客観的に評価することが重要です。単に「これまでこうしてきたから」という理由だけで、従来の操作性をシステムに要求してはいけません。
ERPilotが推奨する要件定義のアプローチでは、まず業務プロセスの棚卸しを行い、どの部分が「譲れないこだわり」であり、どの部分が「標準化すべき無駄」であるかを切り分けます。このステップを踏むことで、海外製ERPを導入する際にも、必要なカスタマイズを最小限に抑え、スムーズな稼働を実現することが可能になります。
まとめ
日本の「ラップ」のように、細部まで徹底的に作り込まれた品質は私たちの誇りです。しかし、ビジネスの基盤となるERPを選定する際には、そのこだわりが時に過剰品質となり、自社の変化を阻む足枷になることも認識しなければなりません。
海外製ERPの「雑さ」をただ批判するのではなく、その背景にある「標準化の思想」を理解し、自社の業務をいかに変革できるかという視点を持つことが、DX成功への第一歩です。ERPilotを活用しながら、自社の規模や文化に本当に適したシステム選定を進めていきましょう。